増やすのをやめたら、残るものが増えた
AI時代に考える「引き算経営」
AIやさまざまなシステムの進化によって、私たちは以前よりも多くの仕事を、速く処理できるようになりました。
文章を書く。
調べる。
整理する。
計算する。
繰り返しの作業を自動化する。
私たちの事務所でも、AI、マクロ、RPAなどを活用しながら、業務の効率化に取り組んでいます。
しかし最近、効率化とは、今ある仕事を速くすることだけではないと感じるようになりました。
その仕事は、本当に必要なのか。
その制度は、現在の会社の実態に合っているのか。
その支援を、私たちは今後も責任を持って続けられるのか。
仕組みを速く動かす前に、仕組みそのものを見直す。
それが、私たちの考える「引き算経営」です。
顧問先ごとに、必要な支援は異なります
私たちの事務所では、スタッフがただ依頼された作業を処理しているわけではありません。
給与計算や各種手続き、規程の整備などを通じて、一社一社の状況を見ています。
会社の制度が大きく変われば、給与計算、就業規則、各種の届出や申請にも影響します。
一つひとつの手続きだけを見れば問題がないように見えても、制度全体を見たときに整合性が取れていないことや、時間が経ってからリスクが表面化することもあります。
そのため、私たちの事務所では、顧問先についてスタッフ同士で話し合うことがあります。
「この制度は、今の働き方に合っているだろうか」
「この進め方を続けて、将来会社が困ることはないだろうか」
「今、この会社に本当に必要な支援は何だろうか」
ときには意見が分かれることもあります。
それでも、顧問先にとって何が一番よいのかを考えるという点は、全員に共通しています。
現場に近いスタッフが感じる小さな疑問や違和感も、私たちは大切にしています。日々その仕事と向き合っているからこそ、見えるリスクがあるからです。
契約を続けることだけが、誠実さではありません
会社が成長すれば、事業も制度も複雑になります。
以前は、小さな事務所による身近で細やかな支援が合っていた会社であっても、成長の段階によってはより多くの専門家を抱えた社労士法人や、別の体制を持つ事務所が対応する方が適していることもあります。
これは、どちらが優れているという話ではありません。
会社のステージが変われば、必要になる支援の形も変わってきます。
私たちは現在、長くお付き合いしてきた複数の顧問先についても、契約内容や仕事の進め方をあらためて見直しています。
今の契約と、実際に必要となっている業務は合っているのか。
私たちの体制で、今後も責任を持って支援できるのか。
このまま私たちが担当することが、本当にその会社のためになるのか。
長いお付き合いがあるからこそ、簡単に答えを出すことはできません。
しかし、責任を持って「大丈夫です」と言えない仕事を、何事もないように受け続けることもできません。
場合によっては、別の専門家や体制をご案内することが、その会社にとってよりよい選択になることもあります。
契約を続けることだけが、顧問先を大切にすることではない。
会社の将来まで考え、必要な支援の形をご提案することも、専門家としての役割だと考えています。
制度をシンプルにするという選択
ある会社では、毎月一定時間分の残業代を、固定残業手当として支給していました。
しかし、その制度を設けた当時と比べて、実際の働き方は大きく変わっていました。固定分と超過分を分けて計算し、管理するために、毎月多くの確認作業が発生していました。
マクロやRPA、AIなどの技術を使えば、計算を速くすることはできます。
しかし、会社の方と話し合う中で、私たちは別の問いを持ちました。
「この固定残業手当は、現在の働き方に本当に必要なのだろうか」
そこで、手当を廃止することも含め、給与体系そのものを見直すことになりました。
実際に発生した残業に対する計算は必要ですが、固定分と超過分を分けて管理する処理はなくなります。
この見直しにより、給与計算の工数が減るだけではありません。給与体系がシンプルになり、会社から従業員への説明もしやすくなります。
私たちの事務所だけが楽になるのではなく、会社にとっても、従業員にとっても、分かりやすい制度になりました。
今ある作業を速くするのではなく、その作業を生んでいる仕組みを見直す。
いわゆる、「引くこと」によって、双方にとってよい形が生まれた一例です。
「人と責任を守る」ための引き算
AIやシステムは、たくさんの答えや方法を示してくれます。
しかし、日々の仕事の中で感じる小さな違和感は、実際にその仕事をしている人にしか分からないことがあります。
何を残し、何を手放すのか。
顧問先にとって何が本当に必要なのか。
誰を守るために、どこで立ち止まるのか。
最後にその線を引くのは、人です。
引き算は、会社を小さくすることでも、仕事をあきらめることでもありません。
本当に大切な仕事に、きちんと力を使えるようにすること。
粗利を残すこと。
人の余力を残すこと。
専門家としての責任を守ること。
スタッフが安心して働ける環境を守ること。
そして、顧問先にとって本当に必要な支援を考え続けること。
増やすことが簡単になった時代だからこそ、私たちは、何を増やすかだけでなく、「何を減らすか」についても考えていきます。
一社一社の状況と向き合い、その会社に合った、無理のない支援の形をご提案してまいります。