「働きたくて働く人」と「働かざるを得ない人」の違い
―静かに分断される職場を見て思うこと―
2026/07/07 09:35:49 コラム
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最近、仕事を通じてよく考えることがあります。
それは、「人は何のために働くのか」ということです。
社会保険労務士として、日々、経営者の方や働く方の相談を受けています。給与、労働時間、採用、退職、職場の人間関係、就業規則、制度づくり。ご相談の内容はさまざまですが、その奥にはいつも「働くこと」と「生きること」があります。
お金は大切。でも、お金だけでは働き続けられない
もちろん、お金は大切です。
会社を続けるにも、社員を守るにも、家族を守るにも、お金は必要です。生活していく以上、収入は欠かせません。
ですから、「お金がなくても幸せです」と簡単に言うつもりはありません。
ただ、多くの方と接する中で感じるのは、「人はお金のためだけでは働き続けられない」ということです。
誰かの役に立ちたい。
自分の経験を活かしたい。
ありがとうと言われたい。
社会とつながっていたい。
自分の仕事に意味を感じたい。
そうした気持ちがあるからこそ、人は「働きたい」と思えるのではないでしょうか。
反対に、働く理由が「生活のためだけ」「辞められないから」「他に選択肢がないから」になってしまうと、仕事はだんだん苦しいものになっていきます。
もちろん、誰もが理想どおりに働けるわけではありません。
生活があります。責任があります。会社にも事情があります。人手不足の職場もありますし、経営に余裕がない会社もあります。
それでも、だからこそ考えてしまいます。
「人が少しでも前向きに働ける職場とは、どんな職場なのだろうか」と。
意見がぶつかる職場より、怖いもの
職場を見ていて、もう一つ感じることがあります。
それは、
意見がぶつかる職場よりも、誰も何も言わなくなった職場の方が、実は深刻なことがあるということです。
もちろん、喧嘩や感情的な対立が良いという意味ではありません。
言葉が強くなりすぎれば、人は傷つきます。対立がこじれれば、職場全体の空気も悪くなります。関係が決裂してしまうこともあります。
ただ、それでも意見が出ているうちは、まだ「わかってほしい」「変わってほしい」「伝えたい」という気持ちが残っているのかもしれません。
本当に怖いのは、
静かに分断されている職場です。
表面上は大きなトラブルがない。誰も強く反論しない。会議でも波風が立たない。淡々と仕事は進んでいるように見える。
でも、その内側で、人の心が少しずつ離れていく。
言っても無駄。どうせ変わらない。本音を言うと面倒なことになる。波風を立てるくらいなら、黙っていた方がいい。
そのように、言葉が失われていく職場があります。
そのような職場で、人は本当に幸せに働けるのでしょうか。
職場づくりに、絶対の正解はない
私は、職場づくりに絶対の正解はないと思っています。
厳しさが必要な会社もあります。自由さが人を伸ばす会社もあります。まずルールを整えることが必要な会社もあれば、まず対話を取り戻すことが必要な会社もあります。
会社の規模、業種、経営者の考え方、社員の年齢層、これまでの歴史。それぞれ違うからこそ、正解も一つではありません。
だからこそ大切なのは、「その職場にとって、今、何が最適なのか」を考え続けることだと思います。
ルールだけでは、人は幸せに働けない
賃金や制度は大切です。労働時間の管理も、就業規則も、評価制度も必要です。ルールがなければ、職場は不安定になります。
でも、ルールだけでは、人は幸せには働けません。
安心して意見を言えること。違和感を言葉にできること。立場が違っても、対話をあきらめないこと。自分の仕事が誰かの役に立っていると感じられること。
そうしたものが重なって、人はようやく「ここで働いていてよかった」と思えるのではないでしょうか。
働くことは、単に労働時間と賃金の交換だけではありません。
自分の存在が認められること。自分の声が届くこと。誰かと一緒に何かをつくっていると感じられること。自分の人生の一部として、その仕事に意味を感じられること。
そういう実感があるからこそ、人は「働かざるを得ない」からではなく、「働きたいから働く」に近づいていけるのだと思います。
これからの職場づくりに必要な問い
これからの職場づくりには、
「どう働いてもらうか」 だけではなく、
「どうすれば、ここで働きたいと思ってもらえるか」
という問いが必要なのだと思います。
制度を整えるだけではなく、その職場にとって本当に必要なことは何かを考えながら、企業の健やかな成長をお手伝いしていきたいと思います。
【AIと向き合う⑤】AIは、自信満々に間違える
―「鵜呑みにしない」という習慣―
2026/06/23 14:00:56 コラム
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AIに質問をすると、たいてい、すらすらと答えが返ってきます。
言い回しもなめらかで、自信にあふれている。
その堂々とした様子に、つい「そうなんだ」と信じてしまいそうになります。
けれど、ここに、ひとつ気をつけたいことがあります。
AIは、間違えることがあります。
しかも、間違っているときも、正しいときと同じ口調で答えるのです。
<正しい顔をした、まちがい>
たとえば、ある手当が社会保険の対象になるかどうか。
ある制度の、細かい要件。
こうしたことをAIに尋ねると、もっともらしい答えが返ってきます。
でも、よく見ると、少し古い情報だったり、似て非なる制度と混ざっていたり、条文の言葉がほんの少しずれていたりすることがあります。
社労士として日々この分野にいると、「ここは確認が必要だ」と気づけることがあります。
けれど、その分野を知らない人には、見分けがつきません。
なめらかで、自信のある文章ほど、かえって「正しそう」に見えてしまうのです。
<なぜ、労務では特に怖いのか>
労務の答えは、人のお金や生活に直結します。
給与、手当、社会保険、解雇、年金。
どれも、間違った理解のまま処理してしまうと、あとになって大きな問題になりかねません。
しかも、困っている人ほど、早く答えがほしいものです。
だからこそ、AIのなめらかな答えに、飛びつきたくなる。
その気持ちは、よく分かります。
でも、急いでいるときほど、いったん立ち止まりたいのです。
<疑うのではなく、確かめる>
私がおすすめしたいのは、AIを疑うことではありません。
AIの答えを「たたき台」として受け取るという姿勢です。
返ってきた答えに対して、こう問い直してみる。
「本当に、そうだろうか」
「これは、いつの時点の情報だろうか」
「どの根拠にもとづいているのだろうか」
そして、人の生活がかかった大事な判断は、最後に、根拠資料や専門家に戻って確かめる。
AIに全部をゆだねるのではなく、AIと一緒に考えて、決めるのは人。
この順番を、忘れないようにしたいのです。
<AIの答えを仕事で使う前に、確認したいこと>
AIの答えを仕事で使う前に、最低限、ここだけは確認したいものです。
1. その情報は、いつ時点のものか
2. 法令・通達・公的資料など、根拠が確認できるか
3. 似た制度と混同していないか
4. 自社の就業規則・雇用契約・実態に合っているか
5. 人のお金・生活・処遇に影響する判断ではないか
最後の5つ目に当てはまるときは、AIの答えだけで決めない。
専門家や、根拠となる資料に戻る。
このひと手間が、後の大きなトラブルを防ぐことにつながります。
<AIと、上手につき合うために>
前回、私は「AIの言葉を、そのまま借りない」と書きました。
今回の「鵜呑みにしない」も、根っこは同じです。
AIは、とても賢い相談相手です。
たくさんのことを、すばやく整理してくれます。
けれど、最終的な責任は、いつも人の側にあります。
鵜呑みにしないことは、AIを遠ざけることではありません。
むしろ、AIの得意なことと、苦手なことを知って、上手につき合うこと。
それが、これからの時代に、AIを道具として使いこなすということなのだと思います。
【AIと向き合う④】
うまく言えないのは、考えがないからではない
2026/06/16 17:47:30 コラム
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<AIは「意見を言葉にする」味方になる >
会議の場で、言いたいことがあるのにうまく言葉にできなかった。
後になって、「ああ、本当はこう言いたかった」と思う。
そんな経験はありませんか。
意見をうまく言葉にできないと、「自分には考えがないのかもしれない」と感じてしまうことがあります。
けれど、多くの場合、考えがないのではありません。考えはある。ただ、まだ言葉の形になっていないのです。
<考えをつくるのではなく、言葉にする>
私は、ここにAIの新しい役割があると思っています。
たとえば、頭の中がもやもやしているとき、きれいにまとめようとせず、AIにそのまま話してみます。
「うまく言えないのですが、こういうことで困っていて、なんだか引っかかっているんです」
するとAIは、
「つまり、こういうことでしょうか」「一番気になっているのは、この部分ですか」
と、こちらの言葉を整理して返してくれます。
やりとりを重ねるうちに、自分でも気づいていなかった本音や、何を大切にしたいのかが、少しずつ輪郭をもってきます。
これは、答えを教えてもらうこととは少し違います。自分の中にすでにあったものを、いったん外に出して眺める。そのための「壁打ち相手」になってもらう感覚に近いのです。
<声の大きさに埋もれてしまう意見>
職場では、すぐに言葉が出る人や、はっきり主張できる人の意見が通りやすいことがあります。
けれど、静かな人、若い人、慎重な人、相手への配慮が先に立つ人の中にも、大切な視点はたくさんあります。言葉にするまでに少し時間がかかるだけで、考えが浅いわけではありません。
AIは、たとえば次のような場面で、その「最初の一歩」を支えてくれます。
・会議で伝えたいことを、要点ごとに整理する。
・強すぎる言い方になっていないか、別の表現を考える。
・反対意見としてではなく、質問や提案の形に言い換える。
言葉にする前の不安が少し軽くなるだけで、これまで表に出なかった意見が、職場の対話に加わることがあります。
<言葉にする練習が、社会参加の一歩になる>
海外に行くと、自分の意見を求められる場面が多くあります。
黙っていることが、必ずしも「慎重に考えている」と受け取られるとは限りません。場合によっては、意見がない、関心がない、あるいは相手の意見に賛成していると受け取られることもあります。
けれど、自分の考えをまとめ、その場で発話することが苦手な人にとって、それは決して簡単なことではありません。
日本では、自分の意見を言葉にして伝えることに苦手意識を持つ人も少なくないように思います。社会に出て、会議や面談、交渉などの場面が増えると、その苦手意識が、よりはっきりと表れることがあります。
そんな人にとって、AIは発話の練習相手にもなります。
まず、自分の中にある考えや気持ちをAIに話してみる。整理された文章を読み、「これは自分の考えに近い」と思えたら、今度はそれを実際に声に出してみます。
文章として整理することと、それを自分の口で話すことは、少し違います。けれど、声に出してみると、「この言い方は自分らしくない」「ここはもっとやわらかく伝えたい」といった違和感にも気づけます。
その違和感をAIに伝えて、もう一度言葉を整える。そして、また声に出してみる。そんな繰り返しも、自分の考えを伝える力を育てる練習になります。
これまで発言をためらっていた人が、自分の考えを伝えられるようになる。それは、その人自身の成長だけではありません。
今まで表に出なかった意見や経験が、職場や社会に届くようになるということです。その言葉が、誰かの困りごとを解決したり、組織をよりよくしたり、新しい行動につながったりすることもあります。
<最後に言葉を選ぶのは、自分>
ただし、ここで大切にしたい前提があります。
AIに「正しい意見」を作ってもらうのではない ということです。
AIは、こちらの経験や気持ちを本当の意味で知っているわけではありません。もっともらしく整理していても、少しずれていたり、事実と違っていたりすることもあります。だからこそ、出てきた言葉をそのまま借りるのではなく、「これは本当に自分が言いたかったことだろうか」と確めることが必要です。
しっくりこなければ、「少し違う」「そこまで強くは思っていない」と伝え、何度でも言葉を選び直せばよいのです。
AIは、自分の中にある言葉を引き出すために使う。最後に、どの言葉を選ぶかは自分で決める。
その線引きがあってこそ、AIの助けを借りた言葉も、自分の言葉になります。
なお、職場の出来事を相談するときは、会社名や個人名など、相手を特定できる情報を入力しない配慮も忘れないようにしたいものです。
<声にならなかった考えが、社会に届く!>
実は、私自身も、考えていることを言葉にまとめるのが得意な方ではありません。AIに手伝ってもらいながら、自分が本当に伝えたかったことを探す場面もあります。
意見を言う力とは、すぐに上手に話す力だけではありません。立ち止まって、自分の考えを確かめ、言葉を選び直す力も含まれます。
AIの手を借りながらでも、自分の言葉にたどり着けたなら、その言葉はきっと相手にも届きます。
そして、これまで発言をためらっていた人が一歩を踏み出せば、積極的な社会参加につながり、その人が持っていた経験や視点が、誰かの役に立つこともあるでしょう。
AIは、誰かの代わりに意見を言う道具ではありません。
まだ声になっていない考えに、そっと輪郭を与え、社会へ届ける一歩を支える道具。
それが、これからの時代の新しい「話す力」を支えるのかもしれません。
【AIと向き合う③】
その質問で、ほしい答えは返ってきますか?
― AIに必要なのは「聞き方」より判断に必要な事実 ―
2026/06/08 17:31:57 コラム
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前回は給与計算の効率化を例に、すぐに答えを求める前に、一度立ち止まって問いを立てることについて書きました。
では、
「いい問い」とは、どのような問いなのでしょうか。
長い文章を書くことでしょうか?
専門用語をたくさん入れることでしょうか?私は、そうではないと思っています。
大切なのは、判断に必要な事実が、きちんと入っていることです。
台風の日の賃金をAIに聞いてみる
例えば、台風で公共交通機関が計画運休になった日のことを考えてみます。
会社の経営者が、AIにこう聞いたとします。
「台風で電車が動かないから、今日は会社を休みにしました。給料は払わなくていいですよね」
今のAIであれば、おそらく、単純に「払わなくてよい」とは答えません。
「従業員が自分の判断で出勤しなかったのか、会社が休業を命じたのかによって異なります。会社が休ませた場合には休業手当が必要になる可能性があります。ただし、自然災害による不可抗力と認められる場合は、支払いが不要となることもあります」
このような回答になるでしょう。
確かに、間違いではありません。
しかし、これだけでは実際の給与計算はできません。
なぜなら、
AIが判断するための事実が、まだ足りないからです。事実を整理して聞いてみる
社労士が実務判断のために質問するなら、例えば次のように聞きます。
「事業所自体に被害はなく、設備も使用でき、営業は可能でした。一方、台風により公共交通機関が計画運休となったため、会社が全従業員を休業としました。就業規則に災害時の特別有給休暇の定めはありません。一部の職種はテレワークが可能です。
この場合の労働基準法第26条の休業手当について、次の観点から整理してください。
①会社が命じた休業か、従業員個人の欠勤か
②不可抗力の要件を満たすか
③テレワーク、時差出勤など、休業を回避する方法があったか
④職種ごとに判断を分ける必要があるか
⑤年次有給休暇として処理できるか
⑥結論を出すために、ほかに確認すべき事実は何か」
ここまで尋ねると、AIの答えは具体的になります。
ただし、
「休業手当を払えばよい」という一つの結論になるとは限りません。例えば、次のように整理されます。
会社が全従業員に休業を命じたのであれば、労働基準法第26条の問題になります。
事業所に被害がなく営業も可能であった以上、直ちに不可抗力とはいえません。
一方で、暴風警報や避難情報が出ていたのか、安全に出勤できる手段があったのか、会社が時差出勤やテレワークを検討したのかによって、判断は変わります。
テレワークができる職種については、仕事をさせる方法があったにもかかわらず会社が休ませたのであれば、不可抗力とは認められにくくなるでしょう。
一方、現場でなければ仕事ができず、安全な通勤手段もなかった職種については、別の判断になる可能性があります。
また、会社が休業とした日を、本人の希望を確認せず、一律に年次有給休暇として処理することはできません。
詳しく質問することで得られるものは、必ずしも「一つの答え」ではありません。誰について同じ判断ができ、誰について判断を分けなければならないのか。
何がすでに分かっていて、何を追加で確認しなければならないのか。
そこまで見えるようになるのです。
問いを立てるとは、答えを誘導することではない
AIへの質問というと、特殊な言葉を使った「プロンプトの技術」が注目されがちです。
けれど、実務で本当に大切なのは、AIから自分の望む答えを引き出すことではありません。
都合のよい結論へ誘導するために、
「テレワークができたのだから、休業手当は必要ですよね」
と聞けば、AIもその前提に引っ張られることがあります。
だからこそ、
「支払うべき理由と、支払わなくてもよい可能性の両方を示してください」
「結論を出すために不足している事実も挙げてください」
と、あえて反対側からも検討させる必要があります。
問いを立てるとは、答えを決めてから尋ねることではありません。
判断に必要な事実と論点を並べ、まだ分からない部分を明らかにすることです。社労士の仕事も同じです
これは、AIに限った話ではありません。
顧問先から、
「この日は無給でいいですよね」
「この社員には辞めてもらえますよね」
「固定給にすれば毎月同じ金額になりますよね」
と聞かれることがあります。
けれど、その言葉だけに答えてしまうと、本当に確認すべきことを見落とすことがあります。
誰が決めたのか。
なぜ、そうなったのか。
これまで、どのように扱ってきたのか。
他に選べる方法はなかったのか。その処理によって、誰にどのような影響が出るのか。
一つずつ事実を確認し、問い直していく。
私たち社労士が提供しているのは、法律の答えだけではありません。
「何を確認しなければ、答えを出してはいけないのか」を見極めることも、専門家の仕事です。AIは、問いに書かれていない事実を確定することはできません。
だからこそ、AIが広がる時代には、答えを早く出す力だけではなく、答えてよい範囲を見極める力が、これまで以上に大切になるのだと思います。
障害年金サポート専門サイトを新たにオープン!
2026/06/05 10:10:05 お知らせ
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お客様からのご要望もあり、障害年金に関する申請サポートについて、専門のサイトを立ち上げました。
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