精神障害の労災1082件から考える
ー「人」ではなく「仕事」を叱る職場へー
7月16日付の日本経済新聞で、仕事による強いストレスを原因とする精神障害の労災について報じられていました。
厚生労働省によると、2025年度の労災請求件数は4,958件。
年度内に支給・不支給が決定した3,839件のうち、支給決定は1,082件で、認定率は28.2%でした。
請求件数と支給決定件数は同じ年度に請求された同一の案件群ではないため、単純に4,958件と1,082件を比較することはできません。それでも、単純に計算した認定率が3割に届かないという数字には、社労士としても経営者としても考えさせられます。
認定されなかったことは、苦しみがなかったことではない
労災として認定されなかったことは、その人に苦しみがなかったことを意味しません。
労災認定では、精神障害の発病と業務との関係を、認定基準と客観的な事実に基づいて判断します。そこには、制度としての慎重さが必要です。
一方で、これほど多くの請求が寄せられている事実も、軽く見ることはできません。
挟まれているのは、40代・50代の管理職
私は、社会保険労務士法人の代表社員であり、株式会社の代表取締役でもあります。50代後半、バブル期に社会人となり、現在は二つの法人で部下を育てている真っ最中です。
今回の支給決定件数を年齢別に見ると、40~49歳が294件で最も多く、50~59歳が244件、30~39歳が243件と続いています。
若い社員だけの問題ではありません。40代、50代の管理職は、経営側からは成果を求められ、部下には細心の配慮をしながら指導し、顧客や取引先からの厳しい要求にも対応しています。家庭では、子育てや親の介護を抱えていることもあります。
まさに、上からも下からも挟まれやすい世代です。
ハラスメントを防ぐことは当然です。しかし、「何を言ってもパワハラと受け取られるのではないか」と管理職が恐れ、必要な指導までできなくなれば、人材を育てることはできません。厚生労働省の指針でも、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しないとされています。
「人」を叱るのではなく、「仕事」を叱る
大切なのは、厳しいか、やさしいかという二者択一ではありません。
何に対して、どのような言葉で指導するのか。
私は、仕事の品質については、必要な基準を求めるべきだと考えています。
期限を守ること。間違いを見直すこと。お客様に責任ある仕事を提供すること。これらを曖昧にすることは、本当のやさしさではありません。
しかし、
叱る対象は、その人の人格ではなく、その人が行った仕事です。「人」を叱るのではなく、「仕事」を叱る。
間違いがあれば、何が違っていたのかを具体的に伝える。求める基準を示す。改善の方法を一緒に考える。そして、もう一度取り組む機会をつくる。
私にも、指導の言葉が仕事ではなく、自分自身に向けられたように感じたことがあります。詳細は胸にしまっておきます。ただ、言葉は、発した側が思う以上に長く人の心に残る。そのことは忘れたくありません。
問題を小さいうちに見つける仕組み
だからこそ、会社には、問題が起きてから対応するだけではなく、問題を小さいうちに見つける仕組みが必要です。
私は、職場環境について継続的に話し合う委員会をつくること、そして社員だけでなく管理職にも、こまめな面談の機会を設けることを提案したいと思います。
委員会は、誰かを裁くための場所ではありません。
業務量に無理はないか。指導する側が孤立していないか。社員が相談をためらっていないか。顧客からの迷惑行為を個人だけに背負わせていないか。
こうした職場の小さな変化を、早い段階で捉えるための場所です。
強い人・弱い人で分けない職場へ
人を「心の強い人」「弱い人」と固定的に分ける必要もありません。
誰にでも、踏ん張れるときがあります。そして、支えを必要とするときもあります。
部下も管理職も、会社もスタッフも、手を取り合って働いていく。
私たちが目指す「社会にやさしい提案型の社会保険労務士法人」とは、誰が悪いかを判断するだけではなく、どうすれば人を守りながら、人を育てることができるのかを、企業の皆様と一緒に考える存在です。
働く人の尊厳を守ること。
管理職を孤立させないこと。
そして、仕事の品質と責任を守ること。
そのいずれも諦めない職場づくりを、これからも提案していきたいと思います。