【AIと向き合う④】
うまく言えないのは、考えがないからではない
<AIは「意見を言葉にする」味方になる >
会議の場で、言いたいことがあるのにうまく言葉にできなかった。
後になって、「ああ、本当はこう言いたかった」と思う。
そんな経験はありませんか。
意見をうまく言葉にできないと、「自分には考えがないのかもしれない」と感じてしまうことがあります。
けれど、多くの場合、考えがないのではありません。考えはある。ただ、まだ言葉の形になっていないのです。
<考えをつくるのではなく、言葉にする>
私は、ここにAIの新しい役割があると思っています。
たとえば、頭の中がもやもやしているとき、きれいにまとめようとせず、AIにそのまま話してみます。
「うまく言えないのですが、こういうことで困っていて、なんだか引っかかっているんです」
するとAIは、
「つまり、こういうことでしょうか」「一番気になっているのは、この部分ですか」
と、こちらの言葉を整理して返してくれます。
やりとりを重ねるうちに、自分でも気づいていなかった本音や、何を大切にしたいのかが、少しずつ輪郭をもってきます。
これは、答えを教えてもらうこととは少し違います。自分の中にすでにあったものを、いったん外に出して眺める。そのための「壁打ち相手」になってもらう感覚に近いのです。
<声の大きさに埋もれてしまう意見>
職場では、すぐに言葉が出る人や、はっきり主張できる人の意見が通りやすいことがあります。
けれど、静かな人、若い人、慎重な人、相手への配慮が先に立つ人の中にも、大切な視点はたくさんあります。言葉にするまでに少し時間がかかるだけで、考えが浅いわけではありません。
AIは、たとえば次のような場面で、その「最初の一歩」を支えてくれます。
・会議で伝えたいことを、要点ごとに整理する。
・強すぎる言い方になっていないか、別の表現を考える。
・反対意見としてではなく、質問や提案の形に言い換える。
言葉にする前の不安が少し軽くなるだけで、これまで表に出なかった意見が、職場の対話に加わることがあります。
<言葉にする練習が、社会参加の一歩になる>
海外に行くと、自分の意見を求められる場面が多くあります。
黙っていることが、必ずしも「慎重に考えている」と受け取られるとは限りません。場合によっては、意見がない、関心がない、あるいは相手の意見に賛成していると受け取られることもあります。
けれど、自分の考えをまとめ、その場で発話することが苦手な人にとって、それは決して簡単なことではありません。
日本では、自分の意見を言葉にして伝えることに苦手意識を持つ人も少なくないように思います。社会に出て、会議や面談、交渉などの場面が増えると、その苦手意識が、よりはっきりと表れることがあります。
そんな人にとって、AIは発話の練習相手にもなります。
まず、自分の中にある考えや気持ちをAIに話してみる。整理された文章を読み、「これは自分の考えに近い」と思えたら、今度はそれを実際に声に出してみます。
文章として整理することと、それを自分の口で話すことは、少し違います。けれど、声に出してみると、「この言い方は自分らしくない」「ここはもっとやわらかく伝えたい」といった違和感にも気づけます。
その違和感をAIに伝えて、もう一度言葉を整える。そして、また声に出してみる。そんな繰り返しも、自分の考えを伝える力を育てる練習になります。
これまで発言をためらっていた人が、自分の考えを伝えられるようになる。それは、その人自身の成長だけではありません。
今まで表に出なかった意見や経験が、職場や社会に届くようになるということです。その言葉が、誰かの困りごとを解決したり、組織をよりよくしたり、新しい行動につながったりすることもあります。
<最後に言葉を選ぶのは、自分>
ただし、ここで大切にしたい前提があります。
AIに「正しい意見」を作ってもらうのではない ということです。
AIは、こちらの経験や気持ちを本当の意味で知っているわけではありません。もっともらしく整理していても、少しずれていたり、事実と違っていたりすることもあります。だからこそ、出てきた言葉をそのまま借りるのではなく、「これは本当に自分が言いたかったことだろうか」と確めることが必要です。
しっくりこなければ、「少し違う」「そこまで強くは思っていない」と伝え、何度でも言葉を選び直せばよいのです。
AIは、自分の中にある言葉を引き出すために使う。最後に、どの言葉を選ぶかは自分で決める。
その線引きがあってこそ、AIの助けを借りた言葉も、自分の言葉になります。
なお、職場の出来事を相談するときは、会社名や個人名など、相手を特定できる情報を入力しない配慮も忘れないようにしたいものです。
<声にならなかった考えが、社会に届く!>
実は、私自身も、考えていることを言葉にまとめるのが得意な方ではありません。AIに手伝ってもらいながら、自分が本当に伝えたかったことを探す場面もあります。
意見を言う力とは、すぐに上手に話す力だけではありません。立ち止まって、自分の考えを確かめ、言葉を選び直す力も含まれます。
AIの手を借りながらでも、自分の言葉にたどり着けたなら、その言葉はきっと相手にも届きます。
そして、これまで発言をためらっていた人が一歩を踏み出せば、積極的な社会参加につながり、その人が持っていた経験や視点が、誰かの役に立つこともあるでしょう。
AIは、誰かの代わりに意見を言う道具ではありません。
まだ声になっていない考えに、そっと輪郭を与え、社会へ届ける一歩を支える道具。
それが、これからの時代の新しい「話す力」を支えるのかもしれません。