前回、私は「問いを立てる力」が、これからの働き方を変えていくのではないか、と書きました。
今回はその続きとして、もう少し現場に近い話をしたいと思います。
テーマは、私たち社労士にとって身近な
「給与計算」です。
いま、どの会社でも「AIを使えばもっと効率化できるのでは?」という声が聞かれるようになりました。
給与計算も、その例外ではありません。
「この作業、AIにやらせれば早いのでは?」そう考えること自体は、とても自然なことだと思います。
けれども、私はその前に、一度立ち止まることにしています。
「この作業は、そもそもなぜ大変なのだろうか」と。
給与計算が大変になる理由は、会社によって違います。
手当の種類が多すぎて、毎月の判断に時間がかかっている会社。
支給ルールがあいまいで、担当者の頭の中にしか正解がない会社。
Excelの表が継ぎ足しでふくらみ、誰も全体を把握できなくなっている会社。
そのどれもが「大変」なのですが、
大変の中身がまるで違います。ここを見ないまま「AIで効率化」と進めると、どうなるか。
あいまいなルールはあいまいなまま、AIに渡されます。
複雑な手当は、複雑なまま自動化されます。
結果的に多くの場合、問題はなくならず、見えにくくなるだけです。
私が現場で感じるのは、答えが必ずしもAIとは限らない、ということです。
ある会社では、Excelの関数を少し見直すだけで、作業が半分になりました。
別の会社では、マクロを組むことで、毎月の手間がほとんどなくなりました。
そしてある会社では、そもそもの手当のあり方を整理したことで、計算が楽になっただけでなく、社員にとっても「わかりやすい給与」になりました。
最後の例は、効率化の話のはずが、いつのまにか「制度をどう整えるか」という話に変わっていました。
私は、これこそが社労士の仕事だと思っています。
AIは、たしかに強力な道具です。
うまく使えば、私たちを単純作業から解放してくれます。
けれども道具は、「何のために使うのか」が決まって初めて、力を発揮します。包丁が、料理人の手にあるのと、目的のないまま握られているのとでは、まるで意味が違うように。
だから私は、AIを使うかどうかを考える前に、いつもこう問います。
「この作業は、本当に必要なのか」
「面倒の本当の原因は、どこにあるのか」
「ここを楽にして、私たちは何を得たいのか」
この問いを飛ばして効率化を進めると、速くはなっても、会社は何も変わりません。
逆に、この問いから始めると、たとえAIを使わなくても、現場はちゃんと軽くなっていきます。
私たちJOYが大切にしているのは、AIで人の仕事を置き換えることではありません。
まず課題を見つけ、問いを立てること。
その上で、AIがふさわしければ使い、Excelで足りるならExcelで、制度を直すべきなら制度を直す。道具を選ぶのは、いつも人間の側であってほしい。
そう願いながら、私は今日も給与計算の現場と向き合っています。
効率化とは、速くすることではなく、何を大切にするかを選び直すことなのかもしれません。