制度の網目を抜けていく“働き方改革”──
高市政権が示す“たしかな変化”と現場が問うべき問い
働き方改革──その言葉自体は、もう新鮮味を失い始めている。だが、導入された制度の数と、働く人・運営側が実感する変化とは必ずしも一致していない。企業の現場では「制度が整った」という報告よりも、「使いこなせていない」「導入はしたが効果が見えない」という声がむしろ増えている。
東京都が実施した企業実態調査では、「短時間勤務」の導入率46.5%、「時差出勤」40.3%、「フレックスタイム」31.8%という数値が示されている。(東洋経済オンラインより
https://toyokeizai.net/articles/-/914259?display=b&utm)
いわゆる“柔軟な働き方"が制度化されたとしても、現場に浸透していないという現実がそこにはある。
では、どうして現場とのギャップが生まれるのか。
それは制度設計と制度運用の間に、企業規模・業務特性・人的リソースという三つの壁が横たわっているからだ。大企業であればシステム導入、コンサル支援、労務専門担当者の配備が可能だ。しかし、中小企業では「制度を作ること」それ自体が重荷になっている。人手が足りず、時間も金銭的余裕もない。制度を“守る"ことだけに注力すれば、かえって働きにくさを生むという現実がある。
そこで注目されるのが、高市早苗政権による新たな働き方・雇用政策の動きだ。高市氏は2025年10月4日の総裁選勝利演説で、「ワーク・ライフ・バランス(WLB)という言葉を捨て、働いて働いて働いて働いて働きます」と宣言した。
(PRESIDENT Onlineより
https://president.jp/articles/-/103411?page=1&utm)
そして就任直後には、「心身の健康維持と労働者の選択を前提とした労働時間規制の緩和検討を指示」したという報道もある。(
https://x.com/i/trending/1981462188217766086?utm)
このような発言・方針を見ると、二つの印象が読み取れる。ひとつは、「働きたい人がもっと働けるようにする」という選択肢の拡大を目指しているというポジティブな意図。もうひとつは、「制度を整えて終わらせるのではなく、次に何をするか」という現場運用への問いかけである。
つまり、働き方改革が「制度をつくる」フェーズから、「制度を活かしていく」フェーズへ移ろうとしている兆しかもしれない。制度の網を張るだけではなく、その網が本当に働く人・企業を支えているかどうかを問う段階にあるのだ。
しかし現場の観点からは、懸念も残る。
制度の“導入率"が実績として報じられても、実際に「働きやすくなった」「採用しやすくなった」「離職率が改善した」という効果につながっていなければ、その制度は掛け声で終わってしまう。いまこそ、次の視点が重要だ。
① 制度の“質”を問う
例えば、フレックスタイムを導入していても、実態としてコアタイムが長すぎて結局働く時間は変わらないというケースが少なくない。制度は存在しても、運用が伴っていなければ意味がない。企業は、自社と従業員の実状に即して、制度を選び直す時期に来ている。
② 導入・運用を支える体制整備
中小企業では、制度を「つくる」段階で止まることが多い。政府・行政は制度整備だけではなく、導入・運用を支援する“現場の仕組み"を整えることが求められている。高市政権の「選択を前提とした規制緩和検討」の指示は、まさにその“次のフェーズ"として注目される。制度だけでなく、使える制度にするための支援機構が肝要である。
③ 価値観と採用の観点を捉える
若年層・中途層ともに、働き方や福利厚生のあり方への価値観が変化している。「働きやすさ」「健康支援」「制度の実効性」が採用・定着の鍵となっている。こうした人材環境の変化を、企業側が「コスト」ではなく「投資」として捉えられるか。制度が古い枠組みのままであれば、人材確保の競争に敗れるリスクがある。
最後に、働き方改革の本質をあらためて確認したい。制度の整備や政権の宣言が目的ではない。目的は「働く人が安心して、長く、力を発揮できる環境をつくる」ことである。高市政権のもとで示された「選択と規制見直し」の方向性は、現場にとってのチャンスである。だが、制度が現場を追い越してはいけない。制度は現場を守るためにある。
制度の網目にかかって抜け落ちていく企業や働く人々がいてはならない。
「制度を守るために現場が疲弊する」のではなく、
「現場を守るために制度が生きる」──その視点を、今こそ再確認したいのである。