2025年施行の育児介護休業法改正 ~企業のリスク管理と社会にやさしい職場づくり~
はじめに
2024年5月24日、育児介護休業法等の改正法が国会で可決・成立しました。
この改正は、2025年4月1日と2025年10月1日に段階的に施行される予定です。
本改正は、働く人々の仕事と育児・介護の両立支援を強化し、より柔軟な働き方を実現することを目指しています。
社会にやさしい提案型社労士法人として、私たちは本改正の内容を詳しく解説し、企業経営者の皆様に向けて、リスク管理の観点からも重要なポイントをお伝えしたいと思います。
改正の主なポイント
子の年齢に応じた柔軟な働き方の実現
2025年10月1日より、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して、柔軟な働き方を実現するための措置が事業主に義務付けられます。
具体的には、以下の中から2つ以上の措置を選択し、実施する必要があります。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(10日/月)
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(10日/年)
・短時間勤務制度
育児休業取得状況の公表義務拡大
2025年4月1日より、従業員300人超の企業に対して、育児休業取得状況の公表が義務付けられます。
これにより、企業の育児支援への取り組みが可視化され、社会的評価にも影響を与える可能性があります。
介護離職防止のための措置強化
介護離職を防止するため、個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が義務付けられます。
これは、育児休業制度の改正と類似した経過を辿っており、今後さらなる強化が予想されます。
企業のリスク管理の観点から
1.コンプライアンスリスク
本改正により、企業には新たな義務が課されます。
これらの義務を適切に履行しない場合、法令違反となり、罰則や社会的信用の低下などのリスクが生じる可能性があります。
特に、育児休業取得状況の公表義務は、企業の評判に直接影響を与える可能性があるため、注意が必要です。2.人材流出リスク
現状では、子育てに優しい環境とは言い難い企業も多く存在します。
本改正を機に、育児・介護支援制度を充実させない企業からは、優秀な人材が流出するリスクが高まります。
特に、若手や中堅の従業員の離職は、企業の将来的な成長に大きな影響を与える可能性があります。3.生産性低下リスク
柔軟な働き方の導入や育児・介護休業の取得促進は、一時的に業務効率の低下を招く可能性があります。
しかし、長期的には従業員の満足度向上や優秀な人材の確保・定着につながり、結果として生産性の向上に寄与する可能性が高いです。
短期的な生産性低下と長期的な利益を適切にバランスを取ることが重要です。4.不正受給防止のためのリスク管理
育児休業給付金の不正受給を防止するため、より厳格な仕組みが導入される可能性があります。
企業は、従業員の育児休業取得状況を適切に管理し、正確な情報を提供する必要があります。
不正な申請や虚偽の報告は、企業にとって大きなリスクとなる可能性があります。5.くるみん認定制度の活用
くるみん認定制度は、子育てサポート企業として一定の基準を満たした企業に対して、厚生労働大臣が認定を行う制度です。
本制度を活用することで、以下のようなメリットが得られます
・企業イメージの向上
・優秀な人材の採用・定着
・公共調達における加点評価
くるみん認定を取得することで、企業は社会的責任を果たしつつ、競争力を高めることができます。
また、認定を目指すことにより、法改正対応はもちろん、より一層仕事と子育てを両立しやすい職場環境を整える体制づくりができます。
企業が取るべき対応
社内制度の見直しと整備
今回の改正に合わせて、以下の点について社内制度を見直し、整備する必要があります。
柔軟な働き方を実現するための措置の導入
育児休業取得状況の把握と公表の準備
介護離職防止のための支援制度の強化従業員への周知と教育
新しい制度や支援措置について、従業員に適切に周知し、理解を促進することが重要です。
特に管理職に対しては、部下の育児・介護と仕事の両立を支援するための教育が必要です。業務プロセスの見直し
柔軟な働き方の導入に伴い、業務プロセスの見直しが必要になる可能性があります。
テレワークの導入や時差出勤の実施など、新しい働き方に対応できるよう、業務の効率化や見直しを行いましょう。情報システムの整備
育児休業取得状況の把握や公表、柔軟な働き方の管理などのため、人事情報システムの整備や改修が必要になる可能性があります。
早めに対応を検討し、準備を進めることをお勧めします。社内相談窓口の設置
育児・介護と仕事の両立に関する相談窓口を設置し、従業員が安心して相談できる環境を整備しましょう。
これにより、潜在的な問題を早期に発見し、対応することができます。
社会にやさしい職場づくりの重要性
本改正は、単なる法令遵守の問題ではなく、社会全体で子育てや介護を支援し、誰もが働きやすい環境を作るための重要な一歩です。
企業がこの趣旨を理解し、積極的に取り組むことで、以下のような効果が期待できます
・従業員の満足度向上と生産性の向上
・優秀な人材の確保と定着
・企業イメージの向上と社会的評価の向上
・多様な人材の活用による創造性と革新性の向上
介護休業制度の今後の展望
介護休業制度は、育児休業制度の改正と類似した経過を辿ると考えられます。
今回の改正でも、介護離職防止のための措置が強化されていますが、今後さらなる拡充が予想されます。
企業は、介護に関する支援制度についても、先を見据えた準備を進めることが重要です。
不正防止と適切な制度運用
育児休業給付金の不正受給を防止するため、より厳格な仕組みが導入される可能性があります。
企業は、従業員の育児休業取得状況を適切に管理し、正確な情報を提供する必要があります。
同時に、真に支援が必要な従業員が制度を利用できるよう、公正かつ透明性の高い運用を心がけましょう。
まとめ
2025年施行の育児介護休業法改正は、企業にとって新たな挑戦であると同時に、社会にやさしい職場づくりを推進する絶好の機会でもあります。
本改正を単なる法令遵守の問題としてではなく、企業の持続的成長と社会的責任を果たすための重要な施策として捉えることが重要です。
企業経営者の皆様には、以下の点に特に注意を払いながら、対応を進めていただくことをお勧めします。
・法改正の内容を正確に理解し、必要な社内制度の整備を計画的に進める
・従業員への周知と理解促進を図り、制度の適切な利用を促す
・業務プロセスや情報システムの見直しを行い、新しい働き方に対応できる体制を整える
・くるみん認定の取得を目指し、子育てサポート企業としての地位を確立する
・介護休業制度についても、将来的な拡充を見据えた準備を進める
・不正防止と適切な制度運用のためのチェック体制を整備する
社会にやさしい提案型社労士法人として、私たちは企業の皆様が本改正に円滑に対応し、従業員と企業双方にとって価値ある職場環境を作り上げていくことを支援してまいります。
本改正を機に、日本の労働環境がより良いものとなり、誰もが安心して働ける社会の実現に向けて、共に歩んでいきましょう。