最低賃金引き上げが問い直す「働く価値」の本質
~社労士として、今こそ向き合いたい課題~
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7月11日、厚生労働省の中央最低賃金審議会が、2025年度の引き上げ目安について議論を開始しました。全国平均は現在1,055円。政府は「2020年代に1,500円台を目指す」との国家目標を掲げ、一律に1000円超の最低賃金を実現しつつ、物価高騰も念頭に過去最大級の引き上げ幅が焦点となっています。
世界の30年、日本の30年
世界ではこの30年、労働者の賃金は顕著に伸び続けています。しかし、日本では、新卒初任給においてさえ長い停滞が続き、実質賃金は2024年に前年比0.5%減と3年連続でマイナス。4月の毎月勤労統計でも1.8%減少となっており、景気や消費にも暗い影が垂れ込めています。
1500円台は中小企業にも重荷
一方で、全国平均1,500円台の達成は、中小企業にとっても大きな負担となることは明白です。家賃・光熱費・原材料費が軒並み上がる中で、人件費だけが跳ね上がれば、経営体力が脆弱な企業は息切れしてしまうでしょう。倒産や雇用縮小が現実となれば、本来救いたい働き手こそ苦境に追い込まれる皮肉――これこそが、本末転倒というべき事態ではないでしょうか。
生活実態と物価上昇の狭間で
実際、全国賃上げで1,000円台を超えたとはいえ、「働いても人間らしく暮らせる賃金」には程遠い声が多く聞こえてきます。全労連の調査では、25歳単身者の生活最低生計費は時給1,500円以上(月150時間として月額24万円)という結果が出ており、物価高を考慮すると1,700円、1,800円という試算すらあると報告されています。
社労士にできること
では私たち社労士ができることは何か。単に顧問先の賃金テーブルを整備するだけでは足りません。今求められるのは、以下のような制度設計において、一歩先を見据える提案力です。
業務効率や生産性を高める多様な雇用形態
短時間勤務や副業併用、業務委託など、柔軟な制度で人材の活用範囲を広げる支援。
非正規や若手の成長を促す賃金連動制度
役割や成果に応じた評価機構で、モチベーションと定着率を引き上げる。
中小企業の財務負担に配慮した支援スキーム
助成金活用や社内改革提案など、支出増への対策を併走型で導く。
働き手への教育・キャリア支援
最低賃金だけでなく、キャリアや業務スキルを伸ばす機会を提供し、結果として企業の生産性を高めつつ、賃金上昇を後押しする。
最後に
最低賃金の大幅引き上げは、社会の公平性と成長双方を目指す重要な挑戦 です。 しかしそれが独り歩きすれば、経営現場と働く人々を傷つけかねない。
制度設計のプロとして私が貢献できるのは、企業と労働者の双方が「共に歩むための仕組みづくり」です。最低賃金の議論は、単なる数値目標ではなく、働く人の尊厳と企業の持続性を両立するための対話の場となるべきだ――そう信じ、日々の相談に全力で応えていきたいと考えています。