「育児と介護の同時進行」が問いかける、日本の働き方の本質
2025/09/01 14:05:02 コラム
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~少子高齢化社会の現場から考える、制度と人生の再設計~
先日、厚生労働省は最低賃金の改定協議に入り、全国平均1,500円台を目指す意向を示しました。一方で、労働にまつわるもう一つの大きな潮流が、静かにしかし確実に進んでいます。それは、「育児」と「介護」がセットとなったライフステージの現実です。
育児、そして介護へ──制度は後追い
育児のための法制度は、先に整備されました。産休・育休・子の看護休暇などを求める声が高まり、形となってきたのです。そして、介護はその後を追うように制度改革が進んできました。2025年改正の育児・介護休業法では、改めて育児・介護の両立支援が盛り込まれています。小学校就学前の子を持つ労働者への残業免除、テレワークの努力義務化、介護離職を防ぐ体制整備など、両者の共通点を意識した統合的設計が施されました。
これは単なる制度改正の枠を超え、現代のライフステージがますます複雑になっている証左にほかなりません。
75歳以上増加する社会構造
日本は世界一の高齢化が進む国です。2025年の時点で、75歳以上人口は全体の約17.5%に達し、65歳以上では既に30%強を占めています 。こうした中、高齢者介護は決して他人事ではなく、誰もが直面する可能性のある生活課題です。
子育てしつつ親を支える──いわゆる「ダブルケア」は、既に多くの家庭で現実となっています。近い将来、育休や職場復帰と同時に介護が始まる方も珍しくないでしょう。
育児環境は向上、しかし経済的負担は重く
安心感のある育児施設や教育の質、保育所の数は確かに増えています。しかし、物価上昇とそれに伴う保育料・教育費の高騰は、若年家庭に決して軽い負担ではありません。時給換算すると、最低生計費に見合う水準は1,500円、さらには1,700~1,800円とも言われます。制度は整えられても、実生活の「経済的リアル」はまだ追いついていないのです。
制度の先にある「人生設計」
育児や介護が生活に入り込む中で、働き方にも根本的な再設計が求められています。「育児だけ」「介護だけ」ではもはや語れない。人生全体を通じて働く環境をどう設計するのか。その課題こそが、今日の社労士に突きつけられているのだと思います。
社労士として社会にできること
まず前提として、両立のための法制度は拡充されました。しかし「制度がある」だけでは現場の助けにはなりません。私たち社労士が果たすべきは、“制度を使える仕組み"へ落とし込み、人生と現場に根ざした働き方を共に設計することです。
具体的には:
•育児・介護休業の柔軟な取得設計
育児と介護を同時期に抱えるケースでは、交互取得や分割取得の制度設計が必要です。
•テレワークや短時間制度との融合
たとえば「3時間のテレワーク+2時間出社」のように、時間単位で休暇と労働を組み合わせる提案。
•助成金・自治体支援との連携
厚生労働省や地方自治体の支援制度と連携し、コスト負担を軽減する制度支援。
•当事者目線の相談窓口整備支援
育児・介護両立に悩む従業員が相談できる社内体制の整備に踏み込む。
最後に
今、日本は「育児の環境充実」と「介護対応」の狭間で揺れ動いています。その波を越える鍵は、制度に人を合わせるのではなく、人の人生と制度を調和させる制度設計。社労士はその橋渡し役として、もっとも適した立場にあります。
政策や助成金、法制度はいずれ忘れられる記録ではありません。大切なのは「人の暮らしと人生」に寄り添い、制度を生きたカタチにすることだと、私は強く信じています。
社労士という仕事の、その先に見えるもの
社労士という仕事の、その先に見えるもの
――制度の向こうにある、働く人の「横顔」を見つめながら
社労士として日々現場に関わる中で、ふと立ち止まりたくなる瞬間がある。
労務トラブルの相談でも、助成金の手続きでもない。
そうした制度や仕組みの奥に、ひとつの「働く顔」が浮かび上がってくるときだ。
誰にも見せない、疲れた表情。
声にならない不安。
言葉の裏に隠された、本音。
それらは、帳簿や法律だけを見ていても、決して気づくことはできない。
横顔は、正面からは見えない。
だからこそ、社労士は制度の枠に収まりきらない「人間の揺らぎ」に目を向けるべきだと思う。
正しさと現実は、ときにすれ違う
制度は、誰かを守るためにある。
けれど、その「守る」という意図が、ときに現場を縛ってしまうことがある。
たとえば、労働時間の是正を求められても、
「じゃあ、明日から誰が現場に立つのか」という現実に、経営者は直面する。
最低賃金が上がり続ける今、
人を雇うことが“経営リスク"と見なされるような空気もある。
正しさが、苦しさに変わることがある。
それは、経営者にとって最も重い矛盾のひとつだ。
その矛盾の中で、それでも誰かの雇用を守ろうと踏ん張る。
そんな姿を、何度も見てきた。
法律と人のあいだに立ち続けるということ
社労士の役割は、法律の代弁者でもなければ、現場の代弁者でもない。
その両者の“あいだ"に立ち続けること。
そこには、揺れも葛藤もある。
けれど、その狭間でバランスをとることこそが、
“人が働く"という営みを壊さずに守っていく、唯一の道なのだと思う。
ときに誇らしく、ときに苦しい。
それでも、制度を人に近づけていくこの仕事には、確かな意味がある。
経営とは、決断の連続である
「社員を守りたい」
「でも、数字が追いつかない」
「今を乗り越えなければ、明日が来ない」
経営とは、正解のない問いに、毎日「決断」という答えを出し続ける営みだ。
誰かに褒められることは少なく、
むしろ批判の矢面に立つこともある。
それでも、その背中には、社会の雇用の未来が乗っている。
だからこそ、「制度通りにやりましょう」と簡単に言うことはできない。
現場にとって、会社にとって、いま何が最善か。
その答えを、丁寧に、時間をかけて組み立てていくしかない。
制度を語るのではなく、人の生き方を支えるために
社労士という仕事は、結構泥臭い仕事だ。
華やかな成功も、派手な舞台もない。
けれど、確実に、誰かの働く日常を支える力がある。
経営者の孤独や不安を、
働く人の迷いや痛みを、
すべて解決することはできなくても、
そのそばに立ち続けることはできる。
制度の知識を携えながら、
法律と人のあいだに立ち、
その揺らぎごと受け止めながら――
「守る」ことと「生き残る」ことを、どう両立させていくのか
経営に正解はない。
けれど、問いを手放さずに考え続けることだけはできる。
社労士という仕事は、制度をふりかざすことではなく、
その問いのそばに立ち続けることなのかもしれない。
「この時代に、誰のために、何を守るのか。」
その問いを忘れずに、今日もまた、制度の向こうにある「横顔」を見つめている。
最低賃金引き上げが問い直す「働く価値」の本質
このニュースを見た
7月11日、厚生労働省の中央最低賃金審議会が、2025年度の引き上げ目安について議論を開始しました。全国平均は現在1,055円。政府は「2020年代に1,500円台を目指す」との国家目標を掲げ、一律に1000円超の最低賃金を実現しつつ、物価高騰も念頭に過去最大級の引き上げ幅が焦点となっています。
世界の30年、日本の30年
世界ではこの30年、労働者の賃金は顕著に伸び続けています。しかし、日本では、新卒初任給においてさえ長い停滞が続き、実質賃金は2024年に前年比0.5%減と3年連続でマイナス。4月の毎月勤労統計でも1.8%減少となっており、景気や消費にも暗い影が垂れ込めています。
1500円台は中小企業にも重荷
一方で、全国平均1,500円台の達成は、中小企業にとっても大きな負担となることは明白です。家賃・光熱費・原材料費が軒並み上がる中で、人件費だけが跳ね上がれば、経営体力が脆弱な企業は息切れしてしまうでしょう。倒産や雇用縮小が現実となれば、本来救いたい働き手こそ苦境に追い込まれる皮肉――これこそが、本末転倒というべき事態ではないでしょうか。
生活実態と物価上昇の狭間で
実際、全国賃上げで1,000円台を超えたとはいえ、「働いても人間らしく暮らせる賃金」には程遠い声が多く聞こえてきます。全労連の調査では、25歳単身者の生活最低生計費は時給1,500円以上(月150時間として月額24万円)という結果が出ており、物価高を考慮すると1,700円、1,800円という試算すらあると報告されています。
社労士にできること
では私たち社労士ができることは何か。単に顧問先の賃金テーブルを整備するだけでは足りません。今求められるのは、以下のような制度設計において、一歩先を見据える提案力です。
業務効率や生産性を高める多様な雇用形態
短時間勤務や副業併用、業務委託など、柔軟な制度で人材の活用範囲を広げる支援。
非正規や若手の成長を促す賃金連動制度
役割や成果に応じた評価機構で、モチベーションと定着率を引き上げる。
中小企業の財務負担に配慮した支援スキーム
助成金活用や社内改革提案など、支出増への対策を併走型で導く。
働き手への教育・キャリア支援
最低賃金だけでなく、キャリアや業務スキルを伸ばす機会を提供し、結果として企業の生産性を高めつつ、賃金上昇を後押しする。
最後に
最低賃金の大幅引き上げは、社会の公平性と成長双方を目指す重要な挑戦 です。 しかしそれが独り歩きすれば、経営現場と働く人々を傷つけかねない。
制度設計のプロとして私が貢献できるのは、企業と労働者の双方が「共に歩むための仕組みづくり」です。最低賃金の議論は、単なる数値目標ではなく、働く人の尊厳と企業の持続性を両立するための対話の場となるべきだ――そう信じ、日々の相談に全力で応えていきたいと考えています。
従業員の「モチベーション」を高める!成果に繋がる人事制度設計について社労士が解説!
従業員の皆さんが日々活き活きと働き、会社全体の成果に繋げるためには、モチベーションを高める人事制度の設計が不可欠です。しかし、せっかく素晴らしい制度を導入しても、運用がうまくいかなければ逆効果になることも。ここでは、従業員のモチベーション向上に繋がる人事制度を構築するための重要なポイントをご紹介します。
評価者の育成と評価基準の統一
人事評価制度を機能させる上で、評価者の質は非常に重要です。評価者によって従業員の見方が異なると、評価の公平性が損なわれ、従業員の不満に繋がりかねません。
評価者研修の実施
評価基準の理解を深めるだけでなく、具体的な評価方法、フィードバックの仕方など、評価者が自信を持って評価できるような研修を定期的に実施しましょう。複数人での評価
複数人の評価者が関わることで、一人の評価者の主観に偏ることなく、より客観的な評価が可能になります。場合によっては、上司だけでなく同僚や部下からの多面的な評価(360度評価)も検討する価値があります。
曖昧な言葉を避け、具体的な評価基準を設定する
「積極性」「協調性」など、抽象的な言葉は評価者によって解釈が異なりやすく、従業員も何をどうすれば評価されるのかが分かりにくいものです。評価項目の具体化
例えば「積極性」であれば、「新しい業務への提案回数」「困難な課題への自律的な取り組み」など、具体的な行動や成果で測れるように定義しましょう。基準の明文化とすり合わせ
定義した評価基準は、文書化して従業員全員に周知し、評価者と被評価者の間でしっかりとすり合わせを行いましょう。「こうすれば評価される」という共通認識を持つことが、従業員の行動変容を促します。
「できた・できていない」を明確にする評価
「中間評価」という言葉の解釈は様々ですが、もし「どちらともいえない」「もう少し」といった曖昧な評価を指すのであれば、それは避けるべきです。評価は、従業員が自身の強みと改善点を知り、成長に繋げるためのものです。明確な合否基準の設定
評価項目に対して、「できた」のか「できていない」のかを明確に判断できる基準を設けましょう。これにより、評価者は迷うことなく評価を下せ、従業員も自身の達成度を明確に把握できます。建設的なフィードバック
「できていない」と判断された場合でも、その理由や改善策を具体的にフィードバックすることが重要です。単に「できていない」と伝えるのではなく、「○○の点において、××を改善すると、より良くなります」といったように、次に繋がるアドバイスを心がけましょう。
まとめ
従業員のモチベーションを高め、企業の成果に繋げる人事制度を設計するには、評価の公平性、透明性、そして明確性が鍵となります。今回ご紹介したポイントを参考に、貴社に最適な人事制度の構築・見直しを検討されてみてはいかがでしょうか。
当事務所では人事評価制度の構築から運用まで一貫してサポートしております。
人事評価制度の作成についてお考えの方はぜひご相談ください!
社労士の選び方を解説!何を基準にどこを見て契約したらいいの?
「社労士に何を頼めるの?」
「どんな社労士を選べばいいんだろう…」
このような疑問をお持ちの経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。社労士に相談したいと思っても、いざ選ぶとなると迷ってしまいますよね。
社労士の業務は多岐にわたりますが、大きく分けて「手続き代行」と「コンサルティング」の2種類があります。
手続き代行: 労働保険や社会保険の手続き、就業規則の作成・変更など、定型的な業務を代行します。
コンサルティング: 人事・賃金制度の設計、労務トラブルの解決、助成金活用のアドバイスなど、企業の課題に応じた提案や支援を行います。
当事務所は、特に企業の成長を支援するコンサルティングに強みを持つ社労士事務所です。
「手続き代行型」と「提案型」どちらの社労士を選ぶべき?
多くの社労士事務所が「手続き代行」をメインにしている中で、当事務所は「提案型」の社労士事務所として、お客様の経営課題に深く入り込み、最適な解決策をご提案しています。
もちろん、手続き代行も丁寧かつ迅速に対応いたしますが、私たちが本当に力を入れているのは、お客様の企業をより良くしていくための制度設計です。
・就業規則の作成・見直し
・給与体系の設計
・人事評価制度の構築
これらは単なる「ルール作り」ではありません。企業の文化、目指す方向性、従業員の皆さんの働き方を深く理解し、それに合わせたオーダーメイドの制度を共に作り上げていくことが重要だと考えています。
提案型の社労士を選ぶメリット
提案型の社労士を選ぶことで、以下のようなメリットがあります。企業に合わせた最適な制度設計
雛形通りの就業規則や給与体系では、本当の意味で企業にフィットしません。当事務所では、お客様の企業の現状や将来のビジョンを丁寧にヒアリングし、その企業にとって最適な制度を一緒に考え、作り上げていきます。経営課題の根本的な解決
「人が辞めてしまう」「従業員のモチベーションが上がらない」「残業が多い」といった問題は、単なる手続きで解決できるものではありません。制度設計を通して、これらの経営課題の根本的な解決を目指します。継続的な企業の成長支援
制度は作って終わりではありません。企業の成長とともに見直し、改善していく必要があります。私たちは、一度きりの支援ではなく、長期的なパートナーとして企業の成長を継続的にサポートします。
まとめ
ここまでの話をまとめると下記の点を考慮して社労士事務所を選ぶことが今後の企業の成長のためにも重要となってくると言えます。
・専門性: どのような分野を得意としているか。
・提案力: 企業の課題に対して具体的にどのような提案をしてくれるか。
・相性: 担当者とのコミュニケーションがスムーズに取れるか。
・料金体系: 料金が明確で、提供されるサービスに見合っているか。
当事務所では、初回のご相談は無料で承っております。まずは貴社の課題や目標をお聞かせください。私たちは、貴社の「頼れるパートナー」として、企業の成長を力強くサポートいたします。
貴社が抱える人事労務の課題について、ぜひお気軽にご相談ください。