「働き方の多様性」は、私たちの未来をどう変えるのか
~現場で見つけた希望と課題~
今、日本の職場で静かに、しかし確実に変化が始まっている。かつて「正社員こそ安定」と信じられてきた雇用形態の常識が揺らぎ、テレワーク、副業、業務委託、そしてフリーランスと、多様な働き方が現実の選択肢として浮上している。
この変化は、働く人々にとって“自由"をもたらしたように見える。しかし、果たしてそれは本当の自由なのか。そして企業は、この“自由"にどう向き合うべきなのか。社労士として現場に身を置く私は、ここに日本社会の大きな転機を感じている。
「制度に人を合わせる」時代の終焉
私たちは長らく、「制度に人を合わせる」ことが当然だとされてきた。労働時間、勤務場所、雇用形態――すべてが企業側の枠組みによって決まり、その中に収まる人こそ“働ける人"とされてきたのだ。
しかし今や、社会の価値観は大きく変わった。働き方は「企業の都合に人を従わせるもの」ではなく、「人が自らの人生と両立しながら社会に関わる手段」として捉えられるようになってきたのである。
実際、こうした新しい発想をすでに実践に移している企業もある。
ファイザーの短時間正社員制度
世界的製薬企業であるファイザー株式会社では、「週3日、1日4時間以上」の短時間正社員制度を導入している。これは、育児や介護など、家庭の事情によりフルタイム勤務が困難な社員にもキャリアの継続を可能にする制度だ。
制度設計の根底にあるのは、「働ける時間が少ないことが能力や意欲の欠如とは無関係である」という認識である。実際、限られた時間でも高い専門性や生産性を発揮する社員は少なくない。制度と現実のギャップを埋めるこの取り組みは、多様な人材活用の成功例として注目に値する。
イオンモールの副業人材活用
また、イオンモール株式会社では、副業人材を積極的に登用し、社内の専門知識の補完や新規事業開発に活かしている。ある新規事業の立ち上げにおいては、ラーメンチェーンを複数展開した経験を持つ副業人材の知見を導入。フランチャイズ管理のノウハウを社内に取り込むことで、効率的かつ実践的な企画運営を可能にした。
これは、終身雇用型の「社内ですべて完結させる」発想から、「必要な専門性は社外から機動的に取り込む」という、まさに時代に即した変化の象徴である。
ライフネット生命の副業推奨と週3~4日勤務
さらに、ライフネット生命保険株式会社では、「副業歓迎」「週3~4日勤務の正社員」といった柔軟な制度設計により、多様な人材の活用と育成を両立させている。副業を通じた経験値の蓄積を「成長機会」として評価する文化が根付きつつあり、社員一人ひとりの視野とスキルの幅を広げている。 こうした制度が社内に新たな刺激をもたらし、企業としての競争力強化にも寄与しているのは言うまでもない。
社労士としての提言
これらの事例が示すのは、「柔軟な制度設計」が働き方の多様性を支える土台であるということだ。そしてこの土台を設計し、運用面で支えるのが私たち社会保険労務士の役割である。
副業制度の導入に際しては、労働時間管理や労災の適用範囲、情報管理など解決すべき法的
課題が多い。フリーランスとの契約についても、実質的な労務提供であれば偽装請負と見なされるリスクがある。法制度は決して万能ではないが、企業の実情に応じて、今できる最善の選択肢をともに探る――その姿勢こそ、社労士に求められる本来の専門性だと私は考える。
多様性は「戦略」である
働き方の多様性は、単なる人権配慮や福祉的発想にとどまるものではない。それは、人口減少時代を生き抜くための企業の「生存戦略」であり、人材確保の鍵でもある。
「誰もがフルタイムで、毎日9時から17時まで働ける」――そんな時代はもう終わった。だからこそ、制度を人に合わせて設計しなおす時代が来ている。多様な働き方を許容できる組織こそ、これからの日本社会における希望の灯となるのではないか。
私は、そう信じている。