「育児と介護の同時進行」が問いかける、日本の働き方の本質
~少子高齢化社会の現場から考える、制度と人生の再設計~
先日、厚生労働省は最低賃金の改定協議に入り、全国平均1,500円台を目指す意向を示しました。一方で、労働にまつわるもう一つの大きな潮流が、静かにしかし確実に進んでいます。それは、「育児」と「介護」がセットとなったライフステージの現実です。
育児、そして介護へ──制度は後追い
育児のための法制度は、先に整備されました。産休・育休・子の看護休暇などを求める声が高まり、形となってきたのです。そして、介護はその後を追うように制度改革が進んできました。2025年改正の育児・介護休業法では、改めて育児・介護の両立支援が盛り込まれています。小学校就学前の子を持つ労働者への残業免除、テレワークの努力義務化、介護離職を防ぐ体制整備など、両者の共通点を意識した統合的設計が施されました。
これは単なる制度改正の枠を超え、現代のライフステージがますます複雑になっている証左にほかなりません。
75歳以上増加する社会構造
日本は世界一の高齢化が進む国です。2025年の時点で、75歳以上人口は全体の約17.5%に達し、65歳以上では既に30%強を占めています 。こうした中、高齢者介護は決して他人事ではなく、誰もが直面する可能性のある生活課題です。
子育てしつつ親を支える──いわゆる「ダブルケア」は、既に多くの家庭で現実となっています。近い将来、育休や職場復帰と同時に介護が始まる方も珍しくないでしょう。
育児環境は向上、しかし経済的負担は重く
安心感のある育児施設や教育の質、保育所の数は確かに増えています。しかし、物価上昇とそれに伴う保育料・教育費の高騰は、若年家庭に決して軽い負担ではありません。時給換算すると、最低生計費に見合う水準は1,500円、さらには1,700~1,800円とも言われます。制度は整えられても、実生活の「経済的リアル」はまだ追いついていないのです。
制度の先にある「人生設計」
育児や介護が生活に入り込む中で、働き方にも根本的な再設計が求められています。「育児だけ」「介護だけ」ではもはや語れない。人生全体を通じて働く環境をどう設計するのか。その課題こそが、今日の社労士に突きつけられているのだと思います。
社労士として社会にできること
まず前提として、両立のための法制度は拡充されました。しかし「制度がある」だけでは現場の助けにはなりません。私たち社労士が果たすべきは、“制度を使える仕組み"へ落とし込み、人生と現場に根ざした働き方を共に設計することです。
具体的には:
•育児・介護休業の柔軟な取得設計
育児と介護を同時期に抱えるケースでは、交互取得や分割取得の制度設計が必要です。
•テレワークや短時間制度との融合
たとえば「3時間のテレワーク+2時間出社」のように、時間単位で休暇と労働を組み合わせる提案。
•助成金・自治体支援との連携
厚生労働省や地方自治体の支援制度と連携し、コスト負担を軽減する制度支援。
•当事者目線の相談窓口整備支援
育児・介護両立に悩む従業員が相談できる社内体制の整備に踏み込む。
最後に
今、日本は「育児の環境充実」と「介護対応」の狭間で揺れ動いています。その波を越える鍵は、制度に人を合わせるのではなく、人の人生と制度を調和させる制度設計。社労士はその橋渡し役として、もっとも適した立場にあります。
政策や助成金、法制度はいずれ忘れられる記録ではありません。大切なのは「人の暮らしと人生」に寄り添い、制度を生きたカタチにすることだと、私は強く信じています。